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東京地方裁判所 昭和61年(ワ)10972号 判決

一 請求の原因1ないし3は当事者間に争いがなく、右争いのない事実と成立に争いのない甲第一号証の一、二及び乙第一号証によれば、本件発明のタンクの漏洩検査方法の構成要件は、請求の原因3の(一)ないし(四)のとおりであると認められる。

二 被告が被告方法(一)を昭和六一年四月頃から同年五月一五日まで実施していたこと、被告方法(二)を同年五月一五日から実施していることは当事者間に争いがない。

三 そこで、被告方法(一)及び被告方法(二)が本件発明の技術的範囲に属するか否かについて検討する。

成立に争いのない甲第一号証の一、二及び乙第一号証によれば、(1)本件発明は、液体タンクの漏洩検査方法に関するものであること、(2)従来の検査方法においては、検査すべきタンクを気密にしたうえ、タンク内にガス等を充填して一定の加圧状態とすると、漏洩があるときにはガスが漏出してタンク内圧力が低下するから、この圧力低下の有無を圧力計によつて検査することにより漏洩の有無を検査していること、しかし、このような検査方法においては、タンク内を高圧状態とするために、タンクに漏洩があつたり、タンクの気密封じ状態が不完全な場合には、高圧ガス及び貯蔵液体が漏出し、貯蔵液体がガソリン等の危険性流体の場合には非常に危険な事態となること、そのため従来の検査方法を実施するには貯蔵液体を排出してタンクを空にする必要があり、このため作業に長時間を要するうえ、排出した貯蔵液体を一時的に貯留するためのかなり大きな容器が必要であり、また、検査時期が貯蔵液体の少ない時に限られる等種々の欠点があつたこと、(3)本件発明は、以上の欠点を解消し、簡単に、また大型の装置を要することなく、しかも、何ら危険を伴わずに流体タンクの漏洩の有無を検査しうる方法を提供することを目的として、特許請求の範囲のとおりの構成を採用し、これにより、所期の目的を達成したものであること、(4)原告は、本件発明の出願公告後の昭和五八年七月四日、本件明細書の特許請求の範囲の項について、従来の「貯蔵液体が貯留されている液体タンクを気密に閉じる工程と、このタンクより吸引管を介して前記貯蔵液体の少くとも一部を排出することにより前記タンク内を一定の減圧状態ならしめる工程と、その後このタンク内の圧力上昇の有無を検査することを特徴とするタンクの漏洩検査方法。」としていたものを、請求の原因2記載のとおりのものに補正し、圧力上昇の有無を検査する第三工程の後に、検査終了後前記容器内に収納した液体を前記タンクに還流せしめる第四工程を追加したこと、(5)本件明細書には、タンク内の圧力上昇の有無を検査する工程について、「斯くしてタンク1内空間の圧力を減少せしめた状態で開閉弁9を閉じて吸上管5を封ずる。このときマノメータ11にはタンク1内の減圧状態に応じて基準圧力源10の圧力との差Hが生ずる。然るにタンク1等に漏洩があるときには、タンク1内が減圧状態であるため外部から空気が侵入し、この結果時間の経過と共にタンク1内の圧力が上昇するからマノメータ11における圧力差Hが小さくなる。

従つてこの圧力差Hが減少すればこれによりタンク1に漏洩があることが判るから、所要の措置を講ずる。又圧力差Hが減少しなければタンク1には漏洩がないのであるから、開閉弁9を開き容器7を開放して貯留せしめておいた液体をタンク1内に戻す。」(本判決添付の特許公報(以下「本件公報」という。)二頁三欄二行目ないし一五行目)及び「以上本発明の一実施例について説明したが、本発明においては種々変更を加えることが可能である。例えば、………。マノメータ11についてもこれを検尺管3に接続せず他のタンク1内に通ずるものに接続してもよく、或いはタンク1に既設の真空計を代用することもできる。」(本件公報二頁四欄四行目ないし一二行目)との記載があること、以上の事実を認めることができる。

右認定の事実によれば、本件発明は、第一工程において、タンクを気密に閉じたうえで、第二工程において、当該タンク内の貯蔵液体の少なくとも一部を吸引して容器内に収納することにより、タンク内を減圧状態にし、その後、第三工程において、タンク内の圧力上昇の有無を測定し、圧力上昇があるときにはタンクに漏洩があるものと、圧力上昇が見られないときには漏洩がないものと判定することにより、漏洩の有無の検査を終了し、しかる後に、第四工程において、容器内に収納しておいた液体を元のタンクに還流し、検査方法を完了するものであるところ、本件明細書に説明されているマノメータ又は真空計を用いてタンク内の圧力上昇の有無を検査する方法の場合には、圧力検査中に液体を還流すると、タンク内の圧力が上昇し、正しい判定を行うことができなくなるから、検査中に液体を還流することはありえないものといわなければならない。そうであるから、本件発明においては、タンク内の圧力上昇の有無の検査をする第三工程と減圧するため吸引した液体をタンクに還流する第四工程とが別の工程として峻別されているものと、無理なく理解することができ、しかも出願公告後に、従来はタンク内の圧力上昇の有無を検査する第三工程までしか記載していなかつた特許請求の範囲を、圧力上昇の有無を検査する第三工程の後に、検査終了後液体を還流させる第四工程を追加する補正をし、特許請求の範囲に検査を終了した後に液体を還流する旨明記して、右の趣旨を明らかにしているのであるから、本件発明の第三工程の圧力検査を行う方法には、検査中に液体を還流するような方法は含まないものと解するのが相当である。

他方、被告方法(一)及び被告方法(二)を表示する別紙目録(一)、(二)の記載によれば、被告方法(一)及び被告方法(二)においては、タンク1内の液体を返還用タンク容器7に汲み上げ、タンク1内を設定圧に減圧した(工程(c))後、工程(d)において、直ちに返還バルブ9を開いて汲み上げた液体をタンク1内に戻していき、マノメータ11の値が大気圧となつた時点で返還バルブ9を閉じるとともに、汲み上げ開始から返還バルブ9閉じまでの時間Tを計測し、かつ、前記容器7内の液体の残量X9を計測するのであり、そして、この計測された時間T及び残量X9を用いて判別式により漏洩の有無を判定するのである。つまり、被告方法においては、タンクに漏洩がある場合には、タンク内に空気が侵入し圧力が上昇するため、漏洩のない場合に比較すると、還流する液体の量が少ない段階でタンク内の圧力が大気圧と等しくなり、漏洩のない場合に比べ残量X9が多くなるのであり、したがつて、被告方法は、タンク内の圧力上昇を液体の還流量によつて測定しているものということができる。

以上のとおり、本件発明は、第三工程において、タンク内の圧力上昇の有無を検査することにより漏洩の有無を判定し、しかる後に、第四工程において、液体を還流するのに対し、被告方法(一)及び被告方法(二)は、液体の還流を行う工程(d)において、タンク内の圧力上昇の有無を検査しているものであるところ、このような圧力上昇の検査と液体の還流とを同一工程で行う検査方法が、本件発明の第三工程の検査方法に含まれないものであることは、前説示のとおりである。したがつて、被告方法(一)及び被告方法(二)は、いずれも本件発明の構成要件(三)を充足せず、本件発明の技術的範囲に属しないものといわざるをえない。

右の点に関して、原告は、被告方法(一)及び被告方法(二)の工程(d)では、液体をタンクに戻すに当たりタンク内の気圧を知るためマノメータを見る作業が必然的に伴い、この作業によつてタンク内の圧力が設定圧と同一か否かが分かるのであるから、このときにタンク内の圧力上昇の有無が検査されたことになると主張する。しかしながら、被告方法(一)及び被告方法(二)を表示する別紙目録(一)、(二)の記載によれば、被告方法(一)及び被告方法(二)においては、マノメータを見るのは、工程(c)において、タンク内が設定圧に減圧されたことを確認するためと、工程(d)において大気圧に戻されたかどうかを見るためとであつて、これだけではタンクの漏洩の有無を検知することはできず、液体の残量等を計測して初めて漏洩の有無を判定することができるのである。また、工程(d)では、工程(c)において設定圧に減圧されると、その後、直ちに返還バルブ9を開いて汲み上げた液体をタンク1内に戻していくのであるから、液体をタンク1に戻すに当たりタンク1内の気圧を知るためマノメータ11を見たとしても、タンク1内の圧力上昇の有無を知ることはできないのである。そうすると、本件発明の実施例と、被告方法(一)及び被告方法(二)とがマノメータを用いている点で外形的に共通しているとしても、マノメータの意義及び役割は、両者において根本的に異なるのである。したがつて、原告の右主張は、採用することができない。また、原告は、本件発明は公知の技術を改良した発明であるから、被告方法が本件発明の技術的範囲に属するか否かの判断は、特許請求の範囲の中から改良の基になつた主要な構成要件を抽出し、その構成要件と被告方法とを比較して行う必要があり、そして、本件発明の主要な構成要件は構成要件(二)の第二工程であるところ、被告方法(一)及び被告方法(二)は、いずれも構成要件(二)を充足している旨主張する。しかしながら、本件発明は、前認定のとおり、従来の検査方法の欠点の解消を目的として、特許請求の範囲のとおりの構成を採用したものであり、構成要件(一)ないし(四)のいずれを欠いても、本件発明のタンク漏洩検査方法として成立しなくなるのであつて、いずれの構成要件も、本件発明にとつて必須のものであるから、そのいずれかを欠く方法は、本件発明の技術的範囲に属しないものというべきであり、したがつて、被告方法(一)及び被告方法(二)が構成要件(二)を充足しているとしても、前説示のとおり、構成要件(三)を充足しない以上、被告方法(一)及び被告方法(二)は、本件発明の技術的範囲に属しないものというほかはない。そうすると、原告の右主張も、採用するに由ないものといわざるをえない。

四 以上によれば、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないから、これを棄却することとする。

〔編注1〕本件における請求原因は左のとおりである。

1 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許発明を「本件発明」という。)を有している。

特許番号  第一二七九八八四号

発明の名称 タンクの漏洩検査方法

出願日   昭和五三年三月二〇日

公告日   昭和五七年一〇月四日

登録日   昭和六〇年九月一三日

2 本件発明の特許出願の願書に添付した明細書(特許法六四条の規定による補正後のもの。以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。

「貯蔵液体が貯留されている液体タンクを気密に閉じる工程と、このタンクより吸引管を介して前記貯蔵液体の少なくとも一部を吸引して容器内に収納することにより前記タンク内を一定の減圧状態ならしめる工程と、その後このタンク内の圧力上昇の有無を検査する工程と、検査終了後前記容器内に収納した液体を前記タンクに還流せしめる工程とより成ることを特徴とするタンクの漏洩検査方法。」

3 本件発明は、次の構成要件からなるタンクの漏洩検査方法である。

(一) 貯蔵液体が貯留されている液体タンクを気密に閉じる工程(第一工程)

(二) このタンクより吸引管を介して前記貯蔵液体の少なくとも一部を吸引して容器内に収納することにより前記タンク内を一定の減圧状態ならしめる工程(第二工程)

(三) その後このタンク内の圧力上昇の有無を検査する工程(第三工程)

(四) 検査終了後前記容器内に収納した液体を前記タンクに還流せしめる工程(第四工程)(以下省略)

〔編注2〕本件における目録は左のとおりである。

目録(一)

次の工程(a)ないし(f)よりなるタンク漏洩検査方法

別紙図面は、その説明図であり、1は検査すべき地下タンク、2は通気管、3は検尺管、4は注油管、5は吸油管、6は貯蔵液体、7はタンク容器、8は計量機、9は返還バルブ、11はマノメータである。

(a) タンク1の空間容積V、外気温等を計測し記録し、通気管2、注油管4等を密封して前記タンク1内を気密状態とし、タンク1内の揮発性液体6の蒸気圧をマノメータ11により測定して蒸気発生度Pを記録し、その後、密封部を解放しタンク1の内圧を大気圧に戻し、

(b) その後、再度、通気管2、注油管4等を密封して、前記タンク1内を気密状態とし、

(c) 計量機8を駆動し、吸油管5を介してタンク1内の揮発性液体6を返還用タンク容器7に汲み上げ、タンク1内を設定圧に減圧し、

(d) その後、直ちに返還バルブ9を開いて汲み上げた液体をタンク1内に戻していき、マノメータ11の値が大気圧となつた時点で返還バルブ9を閉じるとともに、汲み上げ開始から返還バルブ9閉じまでの時間Tを計測し、かつ、前記容器7内の液体の残量X´を計測し、

(e) 再度返還バルブ9を開いて容器7内の液体をタンク1に戻し、マノメータ11の値が大気圧以上になることを確認した後、前記密封部を開放し、タンク1の内圧を大気圧に戻し

(f) その後、前記V、P、T及び大気圧Hを用いた判別式により適正残量Xを算出し、該Xと前記計測した残量X´とを比較することによりタンク1の漏洩の有無を判定する。

目録(二)

次の工程(a)ないし(f)よりなるタンク漏洩検査方法

別紙図面は、その説明図であり、1は検査すべき地下タンク、2は通気管、3は検尺管、4は注油管、5は吸油管、6は貯蔵液体、7はタンク容器、8は計量機、9は返還バルブ、10はドレンバルブ、11はマノメータ、12は回収容器である。

(a) タンク1の空間容積V、外気温等を計測し、記録し、通気管2、注油管4等を密封して前記タンク1内を気密状態とし、タンク1内の揮発性液体6の蒸気圧をマノメータ11により測定して蒸気発生度Pを記録し、その後、密封部を開放しタンク1の内圧を大気圧に戻し、

(b) その後、再度、通気管2、注油管4等を密封して、前記タンク1内を気密状態とし、

(c) 計量機8を駆動し、吸油管5を介してタンク1内の揮発性液体6を返還用タンク容器7に汲み上げ、タンク1内を設定圧に減圧し、

(d) その後、直ちに返還バルブ9を開いて汲み上げた液体をタンク1内に戻していき、マノメータ11の値が大気圧となつた時点で返還バルブ9を閉じるとともに、汲み上げ開始から返還バルブ9閉じまでの時間Tを計測し、かつ、前記容器7内の液体の残量X´を計測し、

(e) 前記V、P、T及び大気圧Hを用いた判別式により適正残量Xを算出し、該Xと前記計測した残量X´とを比較することによりタンク1の漏洩の有無を判定し、

(f) 前記容器7内に残された液体をドレンバルブ10を介してタンク1とは別の回収容器12に回収する。

<省略>

(以下省略)

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